仏教vs.倫理

仏教vs.倫理 (ちくま新書)

仏教vs.倫理 (ちくま新書)


仏教には反社会的・反倫理的側面があるように思えるのは以前から気になっていたことで、非常に重要な問題だと思います。仏教の「悟り」とは善悪を超越した領域にいくことで、この「善悪を超越」というのがどういうことなのか、となってくる。

仏教と倫理との緊張関係を考察し、宗教は倫理が扱えない「他者(死者)」の問題を扱う超・倫理的なものであると主張、さらに日本の仏教は葬式仏教が中心とされるが実は生者と死者のなかだちの側面が強いことに特色があるのだと説いてゆきます。

この本のメインテーマは倫理というより「他者(死者)」であり、後半は主に生者と死者の関わりの問題について考察が進められます。専門の学者が書いているせいか、文章は非常に論理的で、ひとつひとつの主張にきちんとした根拠があり、深い思想を感じさせられます。

重要な論考だと思いますが、個人的には仏教と倫理の対立関係について、いろいろな事例を通じてもっと深く問いかけていった方がよいように感じました。別に結論は示さなくても構わないので。

前半も後半も面白いですが、前半の方がこの本のタイトルに合った内容ですね。