真実の言葉はいつも短い
- 作者: 鴻上尚史
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2004/09/08
- メディア: 文庫
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劇作家、演出家として活躍している鴻上尚史さんのエッセイ集です。
絶版となった本からピックアップしたもので構成されています。
本全体の感想としては、ユーモアたっぷりで、また、「この後実はこういう展開になるのでしたー」という意外性もあって、面白かったですね。
演劇のことよりも、見事な文章表現に目を奪われた感じかな……。
以下、各章ごとに感想です。
- 第1章 演劇なんぞというものを
早稲田大学演劇研究会に所属していたころのお話が集められています。
自分の世代よりひとつ前の世代の「大学時代」ってこんな感じだったのかなーと思いながら読みました。
なんていうか、サークルの仲間と演劇をやって、コンパをやって、仲間と将来のこととか、人生のこととか、朝まで語りあって、徹夜明けのぼんやりした目で薄明るい空をじんわり見上げる、そんな感じの「青春」かなー。
そういうの、私の大学時代にも確かにありました。けど、実は、私のひとつ前の世代とはどこか違うのかなーと。
どう違うのかうまくいえないんですが、要するに世代とかじゃなくて、「私」の送った大学時代とちょっと違うということなのかもしれません。
私は、大学時代は、自分の感覚を研ぎすませることにばかり腐心していて、「仲間」と何かを語るという側面は薄かったかなと。
私だけではなく、私の世代って、どこか自分の中に閉じこもっているような「青春」が多いんじゃないかと思うんですよね。
「仲間」がいないわけじゃないけど、基本的には自分の世界というのがあって、他人と関わるにしても、どっちかというと自分の世界っていうのに目が向いてるというか。
もちろん、私の世代もサークルやって、コンパやって、仲間と語って……というのはあったと思うんですが、ひとつ前の世代のノリとはどこか微妙に違うという気がする。
第1章を読んで感じたのは、そういう私の「青春」と作者の「青春」との間のギャップですね。
- 第2章 恋愛なんぞというものを
恋愛と聞いて、作者の恋愛体験からのお話かと思ったら、そういうわけでもなかったです。
作者の恋愛話も出てくるけど、作者以外にも、いろんな人の恋愛話が出てきますし、そのほか、恋愛に関係のある話ということで。
この章はちょっと印象薄かったですね。何でだろ?
多分、作者の実際の恋愛体験をどんどん出して欲しかったという気持ちがあるからでしょうか。
「俺自身」の恋愛について、あの日あのときこういうことがあったんだーっていう生々しい「体験」を出してくれた方が、意見や主張にも説得力がつくと思うんですよね。
何だか、抽象的な感じがしてしまって。
「体験」が全く出てこないわけではないけど、何だか気取った書き方になっていていまいちだったんですよね。
- 第3章 人生なんぞというものを
「「むかつく」について」「「ムカツク」について・2」で語られていることは、私も興味を持っていることだったのですが、いっていること、間違ってはいないけど、わりと平凡かなと。もっと「その先」にいった見解をみたい、とわがままなことを思ってしまいました。平凡とはいったけど、実は、私の考えと同じことをいっていることに対する不満なんです。頼むから俺と違うことをいってくれ! でなきゃ刺激にならないーという、本当にわがままな不満でした。
ムカツクっていう言葉はよくない、特に「表現」としてはよくない、というのは確かにそうだと思うのですが、何というか、「ムカツク」ということについて、もっとねちっこく語って欲しいという気持ちがあるんですね。枚数の関係もあると思うけど、この問題については、もっともっと言葉を費やして、どこまでもこねくりまわすかのように語って欲しかったんですね。なぜなら、「ムカツク」は本当に氾濫しているから。そこら中にあふれてきてるから。ただ切り捨てるだけではなく、ひたすら見極めようとする姿勢が重要なんではないかと。
「あとがきにかえて(『プロバガンダ・デイドリーム』)」も、同様です。ネットの書き込み、特に誹謗・中傷について意見を述べています。いっていることが間違っているとかおかしいというわけではないのですが、もっと突き抜けた意見を読みたいと思ったんです。というのも、ネットのことも私が興味を持っていて深く考えていきたかったことだから、「もっと鋭い指摘を、俺も思いつかなったことを! ああ〜」という、わがままだけど、もどかしい気持ちを感じました。
ネットの書き込みについては、確かに本当にダメな側面があるけれど、と同時に、ネットには「可能性」がある。その「可能性」は、ネットのダメな側面を排除してみえるのではなく、単なる誹謗・中傷も含めたネット全体の中にあるのではないか、と思うのです。ダメな側面を切るだけではなく、ネットの「可能性」というものを鋭く指摘して欲しかったなーと。
いろいろ書きましたが、第3章は社会全体の現象についての言及が多く、わりと熱く読めた感じです。
私は、なぜか、「バナナ」というエッセイが面白かったですね。ただ、こういう不思議なことがありました、というお話なんですが、本当に不思議なので、いろいろ考えこんでしまいました。ほう、バナナが……なぜ!? マジで、めちゃめちゃ気になりました。