松尾スズキ

この日読んだ本。先日鴻上尚史の本を貸してくれた先輩から借りました。

この本は、「大人計画」という劇団を主宰し、演出家や俳優としても有名な松尾スズキさんが、1997年までの業績を「全仕事」というかたちで総括したものです。

第二章「星に願いを」の中で、松尾さんの経歴が語られるのですが……。

この人、大学に入るまでの精神的な経歴が驚くほど私に似ています。なんていうか、相違点もあるけれど、ほとんどソックリといってもいいんじゃないですか。まず、幼いころのものの感じ方、対人関係のぎこちなさ、というよりぎこちなさの「詳細」が私とよく似ています。

小学校5、6年までの間に人気者になって、でも中学になってから急に反転してきた、という点も同じだし、「なぜそうなったのか」という心理的な理由まで同じ。さらに、高校に入ってからオカマっぽくなって、ホモになろうと思ったという点まで同じ。ここまで自分に似ていると怖くなってきます。違うといったら、マンガを描くのが好きだったということぐらい。私は小説を書くのが好きだったんです。あっ、勉強が苦手だったという点も違いますね。私は成績はよかったので……。

大学に入ってからの経歴は私とずれてきますが、やはり、全体的な精神の傾向は私と似ています。特に自殺性向のようなものがあるところはポイントですね。

以前、鴻上尚史と比べると松尾スズキの方が「大きい」と思うなーといったことがあるのですが、それは実は松尾スズキの方がタイプ的に私と近い人間なので鴻上尚史よりもいいように感じたというだけなんだとわかりました。本当に個人的な感想でしかなかったんだな、「大きい」というのは。実際にはただ「こっちの方が私は共感する」っていうだけだったんですね。

この本自体は「記録」的側面が強くて面白いとか面白くないとかで語るようなものではない気もしますが、第2章で語られる経歴の中で、松尾スズキが7年間同棲していたという女性のお話のところが非常に面白いですね。

その同棲相手の女性に、松尾スズキは殴る蹴るの暴力を受けまくっていたらしいのですが……。その受けていたという暴力の内容があまりに過激なので、私もちょっとすごいなと思ってしまいました。

俺、3回ぐらい包丁川に捨ててるんですよ。しかも、彼女はキレる用意をしてたのが凄かった。彼女が二段ベッドの上で寝てて、俺が帰ってきて上と下で口論になったことがあったんですよ。その口論がピークになった時に、ベッドの下から仕込んであった包丁がやおら出てきて、それ持って上から飛び降りてくるんだよ。忍者かおまえはって。今は笑えるけど、ほんとに怖かったあれは。

この部分なんか、読んでて想像しちゃって、私も本当に怖くなりましたよ。二段ベッドという構造の中、包丁持って飛び降りてくるっていうのが本当にすごいですね。イメージ的に「キターーー!!」です。

その後その女性が精神世界にハマッてしまって、宇宙哲学のような怪しい宗教のお話を松尾さんにしだして、松尾さんもその宗教のようなもののイベントに連れられていくところとか、かなり面白かったですね。本当に面白かったのでちょっとここでは語り尽くせないくらい。

ともかく、84〜91ページまでの「愛と暴力」で語られる同棲時代のお話は本当にすごいですね。ここだけ、この本全体の中で異常な光を放っている。松尾さんがその女性のことをよくネタにしているというのもわかります。本当にすごい体験だもん。ちなみにその女性は松尾さんと別れて後、現在は普通の人と普通に結婚して普通に主婦をしているそうです。いやはや、人の過去とはすごいもの。

ただ、本全体としては「記録」的な側面がやはり強いので、面白いとか面白くないとかっていうよりも、すぐれた「資料」として価値のある本だと思いますね。

この本で紹介されている芝居の中で、岸田戯曲賞を受賞した「ファンキー!」という作品は紹介を読んだ限りで確かにすごいように感じましたね。障害者の性を扱った作品とのことですが、ともかく、話を聞いただけで気になっちゃって、あっみたいなーと思ってしまった作品ですね。実際にみていたらすごく衝撃を受けていたと思います、自分。