中国思想を考える
- 作者: 金谷治
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1993/03/01
- メディア: 新書
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中国思想、特に儒教の思想について、現代に生きる私たちにも意味を持つような、こういういい側面があるんだよ、という本。
封建倫理を擁護する古くさい思想として、しばしばマイナスのイメージをもたれる儒教。ですが、儒教自体をよく検証してみると、決して悪い思想ではない、むしろ素晴らしい側面が多い、というのは私にもわかることです。ときの権力者に利用されたことが儒教にとって悲劇だった、というわけで。孔子も孟子も立派な人で、深く尊敬するに値するものです。
ところで、中国思想、というより中国の宗教というと、大きくの儒教・仏教・道教の3つが主流だといいますが、このうちの仏教については、中国にあまり深い影響は残さなかったのではないかと私は思っています。随・唐の時代は確かに仏教は隆盛だったのですが……。結局、儒教の方が伸びていったように思います。
道教とは別に、道家思想というものがあります。この本でも、儒教だけではなく、老子や荘子の道家思想にも焦点をあてた論考がみられます。ですが、どちらかというと儒教寄りですね、この本は。
「中庸」という概念が、「ゆきすぎることのない、ほどほどの境地」というような単純な理解ではとらえきれない、非常に奥の深いものであるということをこの本は教えてくれました。ちょうど真ん中ではなく、「真ん中」の両端も少し含んだ境地が中庸なんだということ。そして、中庸とは、質的にもっとも盛り上がるようなポイントをいうのだということ……。実は、どこまで自分が理解できたのかは怪しいのですが。かなり深い説明がなされていました。
中国思想には「神」というものが出てこないのですが、その点、まさに「神」のいない現代社会において中国思想を適用できる機会は多いだろう、というのは確かにそうだと思います。ただ、「神」はいないけれど、代わりに「天」という概念がありました。「天」というのは人間を超越したものとしてとらえられますが、ときには自然全体を意味することもあったようです。この「天」というのは、「神」のようにみえてそうではなく、ちょっと面白い概念だと思います。現代社会においても突然「天」という言葉が出てくること、ありますよね。「ああ、これは天罰だ」とか。
大変奥の深い内容の本だとは思いますが、中国思想を必死になって持ち上げようとする姿勢があちこちにみえます。「こういういいところがあるんだよ、本当だよ」という感じです。私としては、もっと客観的な、抑えた調子で、中国思想の長所と短所とを冷静に分析するようなかたちで書いた方が、受け入れられると思うのですが……。持ち上げようとする姿勢が強いので、言ってることをそのまま受け入れていいのかどうか、ちょっとためらいが起きるんです。
その意味で、巻末の付録「中国思想」(百科事典からの引用だそうです)は抵抗なく読めました。百科事典という場の影響か、とても客観的で、冷静です。このように書いた方がかえって中国思想の長所がよくわかると思うんですよね……。