頭声と胸声

ヴォイス・トレーニングの全知識 (「全知識」シリーズ)

ヴォイス・トレーニングの全知識 (「全知識」シリーズ)

発声について書いてあるこの本は、事実上、私の教科書みたいなものですね。抽象的な表現が多いようにも思うのですが、語彙が豊富で、文章表現が巧みです。日本のアーティスト全般への批判はやや辛口すぎるように思えますが、その辛口ぶりが全体の中でスパイスになっていて、なかなか面白い。実用書としてだけではなく、読みものとしても読ませる力を十分に持っているんですね。買ったときから何度も何度も読み返していますよ。

さて、この本の中で私が非常に気になったのは、76ページからの「頭声と胸声」の部分です。

高い声が出る人や女性にありがちなのは、頭声の方に全ての声を集め、胸声を全く使っていない状態です(A)。
逆に、胸声だけでキープして出している場合があります。そうすると、あまり頭部に響かないのです(B)。
日本人のトレーナーは、高音域をとるために、頭声を早くから要求しがちです。しかし、結局、頭声、胸声は区別して覚えていくものではなく、歌の中での声の響きのバランスで考えるべきことなのです。
世界各国を回ると、(B)タイプのヴォーカリストが少なくないことに驚かされます。上に響きを持ってこなくとも、胸で、かなり高い音まで出しているのです。これには強靭な体と息の力を必要とします。

この部分を読んでいて、単純に、「頭声って何だろう? 胸声って何だろう?」と思ってしまいました(^^; 頭に響かせる声が頭声で、胸に響かせる声が胸声、と単純に理解しようとしても、どういう音なのかイメージがわかなくて……。

悩んでいたら、周囲の人が「あの人はずいぶんな頭声だね」というのを聞きました。で、推測するに、頭声というのはわりとキンキンした声なのかな。で、胸声というのは、ちょっとこもったような声なのかなと。一般的には、「高い」ように思えるのが頭声で、「低い」ように思えるのが胸声なのかなと。

さて、本の記述は、どちらかというと胸声を重視するような方向に進んでいきます。

高いところで胸声をキープしていると、体が強くなってきます。この歌い方は、シャウトもでき、言葉が響きに流れずにしっかりと伝わりますから、迫力ある歌を歌うときには欠かせません。
しかもトレーニングにとっても最も大切なこと、声を出すことで体が鍛えられていき、声と体とを1つにすることができるのです。……

と、こう読んでくると「胸声がそんなにいいものなら、胸声ばかりでいって、頭声はやんなくても別にいいじゃん」と思ってしまいます。頭声も胸声も全体のバランスの中で考えるべきだ、とはいっていますが、どうみても胸声を重視しているように思えます。

「頭声とは何か、胸声とは何か」という問題に加えて、「胸声だけでいいのか? 頭声の存在意義は?」ということも大変気になり、何度も読み返し、実際にカラオケで実験したりもしていたのですが……。

どうやら、「胸声中心でいきつつも、頭声もところどころに響かせる」というのがいい方向なのかなと。基本的には胸声でやるんだけど、頭声の響きもうまく表現に使っていくような方向。つまり胸声を使うと体が鍛えられるけど、音楽的には胸声だけでいくのはよくないという結論。いや、私の主張ではなく、この本のいおうとしていることが、です。

昔から思っていたことに、胸に掌を当てて、その掌に響くように歌うとうまく歌えるし、疲れないということがあります。うまく歌えるのはいいけど、ちょっと低い声になってしまうように感じていたのですが……。あの、胸に当てた掌に響かせるような声が、胸声なのかな? って、多分そうなんでしょうね。

胸声は何だか低いように感じていたけど、高い音も出せるのだということへの驚き。そして、頭声をいかに使っていくのかという課題。頭声と胸声、この二つについては、もう少し考えていきたいですね……。