隣りの成果主義

隣りの成果主義 (ペーパーバックス)

隣りの成果主義 (ペーパーバックス)

一口に成果主義と言ってもその仕組みは各社各様だが、今はこれなら大丈夫という"完璧な成果主義"は存在しないというのが、人事部の共通の認識になっている。そのうえで、彼らが今知りたいのは、他社の成功例cases of successではなく、「いかに失敗したか」という失敗の実例cases of failureなのだ。

『内側から見た富士通』に比べると、既に何冊も本を出している人なので、文章を書き慣れているような印象もあり、安心して読めるように思いました。

多数の会社に取材し、さまざまなケースを紹介している点がよいです。また、できる限り大きな観点から、「なぜ、こうなのか」という原因を考察し、原因はこれだろうと提示したうえで著述を進めていくところもよいです。

この「原因」の気づきがしっかりしていないと(まさに真相に触れないと)ダメになってしまうと思うのですが、この本の著者はできる限り大きな観点、広い見地からことの「原因」を把握しようとします。多数の会社に取材し、制度の歴史等についても知識が深いからこそ「原因」の把握も確実性を増すのであって、ひとつの会社の人事部長を務めている「だけ」の人たちを超越しています。

「Chapter1 経営者は「成果主義」をやめる気などさらさらない」では、なぜ成果主義への批判が噴出しているにも関わらず、経営者が依然として成果主義にこだわるのか、その理由を述べています。特に目新しい見解はありませんが、「要するに人件費の抑制だよ」といって終わるのではなく、ちゃんと人件費抑制以外の理由もそれぞれ述べて、普通に論を進めていくのがよいです。「要するに人件費の抑制だよ」とだけいって終わるのでは本当につまらないし下らないのですが、この本の著者はその問題は普通にクリアしています。当り前に書き進めているだけですが、こういうところに安心して読める理由があるんですよね。

「Chapter7 公務員にも押し寄せる「成果主義」の波」では、いま進められている国家公務員への成果主義適用の制度設計があまりにもずさんであると批判しています。給与等級と能力等級をなぜ分離するのか、その理由を突き止めた後、しかしそれでは「組合側は納得することができない」と批判する辺りが見事だと思いました。この章を読むと、著者の見識の広さ・深さに本当に溜飲が下がる思いです。

『内側から見た富士通』を読んでいたときは「これ、本当かな?」「感情こもりすぎちゃってるな」と思ったことが多々あったのですが、この本は普通に書いてるだけなのに、その「普通」にやってくれてるという点に安心感を持て、充実した読後の印象を持つことができました。

批判点をあげるとすれば、各社の「失敗例」を紹介することに力を入れているのですが、それは「嘘」だろうと。模索の続く現状では「失敗例」をあげることこそ有益なのだというのですが、そうではなく、「失敗例」をあげていった方が読み物として面白いからなんじゃないの、と思ってしまいました。「失敗例」と同時に「成功例」もあげていった方が考察の参考になると思います。「成功例」なんてないといわれるかもしれないけど。