湖中の女
- 作者: レイモンドチャンドラー,清水俊二
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1986/05/01
- メディア: 文庫
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レイモンド・チャンドラーは私の大好きな作家の一人です。凝った表現の文章が魅力ですし、人間描写も素晴らしい。何より、感傷的な雰囲気に満ちた作風が好きなのです。
しかし、この作品は、チャンドラーの作品の中でも、ちょっと違った感じがしますね。非常に淡々としていて、ひたすら筋を追っていくだけのようなところがあります。全体として、チャンドラーの作品の中でもかなり乾いた感じがしますね。
普通の推理小説のように、フィリップ・マーロウが最後に全ての謎を解明してくれる点も、面白いといえば面白いのですが、と同時に、エンタテインメントとしての側面を強くしていて、これもチャンドラーの作品としては異色ですね。
ただ、この作品が不思議なのは、淡々としていて、乾いていて、ひたすら筋を追っていくだけのように思えるのに、それにも関わらず、読み終わった後、もう一度読みたくなるんですよね。お話の結果がもうわかってしまった後も、作品をもう一度味わいたくなる。おそらく、文章に秘密があるのでしょう。
チャンドラーの作品の中では、感傷的な側面が薄いというか、最後もあっさりと終わるし、事件を追っていって終わりのような感じはするのですが、それはむしろ、適度に抑えたという意味で、文章の味わいを深くしていったのかなと。淡々としているけど、どこかに感情が潜んでいて、深みがあり、いつまでも胸に残る文章。チャンドラーの文章とはもともとそういうものですが、他の作品は、ちょっと感傷的な側面が強くなりすぎていて、ある意味うっとうしさのようなものもできていたのかもしれません。抑えがきいている『湖中の女』の文章は、うっとうしさが適度に抜かれていて、本当に完成された領域にまでいってしまったのかと。
こういうのもいいかな、と思いましたね。ただ、私自身は鬱陶しい方が好きですけどね。
お話の特徴としては、マーロウが次々に「こういうことではないか」という仮説をたてて行動するのですが、次々に意外な展開、意外な真実が明らかになり、マーロウは自分の仮説を次々に修正せざるをえなくなる。読者もだんだん疲れてきて、もう何が何だかーとなってきたところでマーロウがやっと全てを理解し、最後の最後で、登場人物も読者もあっといわせる。
まあ、ミステリーとしては、よくあるネタなんですよね。「顔のない死体」というやつ。けど、ハードボイルドって、ミステリーとして読まない方がいいと私は思うんですよね。謎ときメインとして読まない方がいいということで。お話としては、完成度は本当に高いと思いますね。やっぱり、もう一度読みたくなるのが本当に不思議。チャンドラーはやはり偉大です。